結界
「結界」と聞くと魔法陣だったり、陰謀論だったり、何かと胡散臭い感じがするかもしれない。なにかとスピリチュアルさを感じるのも無理はないだろう。
結界は内陣と外陣、公と私など内外の空間をわかつ物的な装置のことである。そしてこの種の結界において重要なことは空間を分割してはいるものが、決して壁ではないということである。壁は無効を見ることはできないし、壁向こうの世界を窺うこともできない。壁の向こうの空間に何があろうと、こちら側の空間からは把握はできないのが常であり、それがまた壁の特徴である。
これに対して結界は、その種類によって見える程度に差こそあれ、向こうの空間をうかがい知ることができる。またそれができることが、重要な機能なのである。空間を区切っていながら2つの空間の媒介となって、交流させているのが結界なのである。結界は「界」を「結」ぶと書く。つまりは結界を通じて、2つの異なる性格の空間を結びつけているのである。
もう一つの結界の特徴として、結界を成立させる、つまり境界を保つためには、何らかの人による自発的なアクションが必要となるということである。例えば店先にかかる暖簾であれば「くぐる」というアクション、ここから先は立ち入りができないことを示す関守石は「遠慮する」「入らない」といったアクションが必要だ。このアクションを行う地点を明示し、人々にその行為を促すのが結界と言える。
これらのアクションを行うには、結界が持つ「意味」を把握することが欠かせない。壁のように完全なる物理的障壁とはならないがために、結界を結界として認識することができなければ、空間を分かつという機能は果たせないのだ。つまり、人々の間で結界に対する暗黙の了解や約束が共有され、それが守られていることが非常に重要なのだ。ある意味約束事を守る「心のけじめ」が結界をつくるともいえるだろう。けじめをつけるということは、すなわち心構えを変化させるということ。アクションを行い結界を通ることで、人の見た目は変わらずともその人の心の持ち方が大きく変化するのだ。
本展示は、結界の具体的な例と、その結界を通る際の行動とそれによる心情の変化をそれぞれまとめたものである。結界のもつ共通点と多種多様な役割の差を感じていただければ幸いだ。前述した通り、結界は人々の約束の共通認識によって維持されるものである。この約束が忘れ去られたとき、また結界も消滅すると言えよう。反対に新たな約束が生まれれば、新たな結界も生まれるのである。この本は2023年時点での結界のアーカイヴ、世の中がどのような暗黙の了解によって回っていたのかの記録としてもご覧いただければと思う。